黄金の森 F3号
~宙ソラのささやき~
人間界でどんな事象が起きようとも自然や宇宙の営みはゆっくりと進
み、分け隔てなく私たちにその力はアフォードされ、生きる力を与えてく
れます。日常の喧騒からふと放たれた時に何気なく天空を見上げてみると
当たり前のように夜が明け、日が輝き、たそがれ、再びこの世は闇に包ま
れる・・・そんな繰り返される「時の循環性」や「自然の営み」に感謝の
意を込めて、複数の時間軸を行き来し、命を感じながら地上にそそがれる
ひかりや宙からのささやきを優しく画面に表現しています。
展示作品の多くに「裏銀箔薄墨もみ紙」を自ら施した和紙に制作した作
品がありますが、それは単なる偶然の模様をつくるのではなく、和紙の素
材である木の年輪を平面上に再表出させ、天空や天体・時空の存在を意識
した自然への畏敬の念を込めたフォルムを創りあげています。
宙を主題とした作品では、朝焼けや夕映えなどを1枚の画面に同時に描
きだす日本画古来の「異時同図法」を使って空間や時間を表現し、そこに
私たち人間や地球上の全ての生きものの営みが絶え間なく循環し続けて
ほしいという願いが込められています。 関口 浩
~月の存在~
「日本画」は、絵の全てを作家が描きつくして見せる絵画ではなく、鑑
賞者が作品を観て自らイメージすることにより、初めて成立する絵画だと
考えています。例えば、平安絵巻の「引目鉤鼻」などに代表されるように、
物語の人物表情は鑑賞者の知識や教養、生活環境などの様々な要因から幾
重にも変化し想像でき、そこに鑑賞者自身が「心理表像(無限に創造して
いくイメージ)を生み出すこと」が日本画の特徴の1つであり、重要な要
素だと思っています。日本では縁起の良い印象の「月」も西洋では人間を
惑わす存在として捉えられている場合もあり、人により印象は様々です。
刻々と変化する「月」は、それぞれ観る側の世界観や日々の精神状態に
よって美しく見える時もあれば、戒めて見える時もあります。「月」を描
く意味は、鑑賞者が作品中の「月」を観ることにより、自分自身の心の内
を自然と投影し、「個」に内在する自らの心の動きを改めてそっと感じ取
ってもらうことにあるのです。
関口 浩 略歴
1968年 埼玉県生まれ
1995年 多摩美術大学大学院 美術研究科修了
個展、グループ展 毎年開催
2021年 関口浩 現代日本画展
故 松尾敏男氏に師事
後藤画廊(ごとうかみてん)おうちギャラリー gotokamiten